ノゼ

両親から直接教わったことの中でも印象深いものの一つが鼻毛カッターで、主に母がことあるごとに「鼻毛だけは切らないといけないよ」「鼻毛が出てるだけでアウトだよ」「何は無くとも鼻毛カッター」と繰り返してきたため、鼻毛カッターというものが極めて重要なアイテムであると思い込みながら育ってきた。母は上京の際の餞別品にもきっちり鼻毛カッターを忍ばせてくれたのでなかなか嬉しかったのだが、しかし東京にきて友人のいる前でカッターをヴィーンしたところ「お前、そんなもの使うのか」と大層驚かれたので、こっちも驚いた。じゃあお前さんは使わないのか、鼻毛とどう付き合っているんだ…?と聞いたところ生まれてから一度も使ったことがないということで、そんなもの使わなくても困らない程度の鼻毛しか生えていない=鼻から出てきたことはないらしかった。愕然とした。自分は出る側の人間なのだということを初めて知った。そしてその後もしばしばカッターをヴィーンしてるところを人に見られては訝しまれたり奇異の目で見られたりしてきたので、なんだか自分はすごく少数派なんだなと、月に一度か二度ほどヴィーンする際にしんみり思う。

今使っているカッターは母がくれた奴が壊れてしまったあと自分で買った二号機で、2年前に買った充電式のものだったのだが今の今まで一度も充電が切れたことがなく毎回不思議だった。そんなに強いことがあるか、こいつ本当は何か隠しているんじゃないか?

そんなカッターの充電がさっき初めて切れた。少し感動した。右鼻から始めて右の中で死んだので、左がまだ残っている今、このやや恥ずかしい状況について、誰も知らない。

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